感想 ケーキの切れない非行少年たち
この本を手に取ったきっかけはこのタイトルに加え、帯についていたイラストでした。
ケーキを均等に三つに切り分けてくださいと言う質問の回答が乗っているイラストでした。
上記の図が非行少年が三等分したケーキの図であり、見ていただければわかると思いますが、私はとても衝撃を受けました。
非行少年にとっては世界は歪んで見えている、その言葉の真意を探るためにこの本を購入するに至りました。
非行少年が何故非行に走るのか、何故反省しないのかと言う問いに対して筆者の答えは「その能力がないから」と言うものでした。
非行少年に共通する特徴があり、認知機能の弱さ、感情統制の弱さ、融通の利かなさ、不適切な自己評価、対人スキルの乏しさ、身体的不器用さを上げています。
それら人間が成長する過程の中で獲得できる基礎的な能力が障害によって獲得できずにいるせいで様々な問題を引き起こしているということでした。
そしてこのような少年たちは日常生活を送る能力は人並みにあるため問題が浮上してこないと言います。
問題が浮上せず、障害が認知されないために健常者と同じ扱いをされ、健常者である以上人並みにできないことで人から非難されたり、間違った評価をされてしまう。サボっているや手を抜いているなど障害の影響で出来ていないものを性格や育て方の問題と捉えられてしまうのです。
何かが人並みにできないということは人並みにできるはずの能力が性格や生育環境のせいで欠如しているのではなく、そもそも備わっていないからと言う可能性を考えなくてはいけません。
そもそも備わっていないのだからできるはずがないのです。
私はよくペンギンとハトを用いて説明することがあります。
ハトは空を飛べますが、ペンギンは空を飛べません。その代わりハトにはできない海の中を自由に動く能力を持っています。
もし、ハトの群れの中にペンギンがいて、ペンギンに空を飛ぶように言ったとしても意味がないことが皆さんにはお分かりいただけるかと思います。
ペンギンにはそもそも空を飛ぶ能力が備わっていないので空を飛ぶことができないのです。
では、もし自分がハトだとして、そのペンギンの面倒を見なくてはいけないとなったらどうでしょう。
ペンギンは鳥類で、羽もあります。そうするとペンギンにも飛ぶことを求めるのではないでしょうか。だって鳥で、羽があるのだから飛べると思って当然でしょう。
しかし、ペンギンは勿論のこと飛べません。
その様子を見たハトは何と思うでしょうか。
ハトはペンギンが空を飛べるものだと疑っていません。なので段々とこう思っていくはずです。「この黒いハトは同じ鳥で羽もあるのに全く飛ぼうとしない。きっと飛ぶのが億劫でサボっているに違いない」と。
これと同じことが非行少年たちに対して行われているのです。
見た目は同じ、分類上は人間で、健常者として扱われている。
しかし、見た目は同じでも、能力に差があります。そうすると人並み出来ないことに対して健常者はその出来ないことを非難します。
能力が元々備わっているかどうかを考えず、出来ないのはサボっている、怠けているだけだという理由をでっちあげてしまうのです。
できないのは能力が欠如しているのではなく備わっていないのに、です。
さらにこの問題を複雑にしているのは私は目に見えないということです。
ペンギンとハトの例えでは見る人からすれば違いは明らかなので、ハトの群れでなく、北極の海に連れて行ってあげると言った支援ができると思います。
ハトは飛べるが、ペンギンは海を泳ぐ生き物だと知っているので、ペンギンに適した環境を用意して上げることができます。
しかし非行少年と呼ばれる子供たちの場合は違います。
人間は能力の欠如を見た目からは判断できません。
なので、健常者として扱ってしまう。本当は何らかの能力が備わっていないか、著しく弱いのに、普通の一般人として扱ってしまうのです。
何故なら人間のそのような機能的な部分は外側から見ることができないからです。
ペンギンに空を飛ぶことを強要しても意味はありません。
それどころかお互いに不幸な状態になります。
ペンギンに空を飛ぶことを教えているハトも、必死に飛ぼうとしているペンギンも、お互い不幸です。どれだけ教えようとも能力がそもそもないのでどれだけ時間をかけても飛ぶことはないからです。
では、どうすればよいでしょうか。
私はまず見極めることが必要だと思います。
そしてこれができればおおよその問題は解決すると思います。
しかし、この問題が完全に解決するのはとても難しいということも理解しています。
2つ大きな問題があると思います。
まず外側が同じ人間の中身である能力をどうやれば判別できるのかと言う問題です。
今は様々な人間の能力を図るテストがありますが、それでも現状これだけの問題が解決せずにいるということはそのテストは有効であるとはいいがたいと思います。
それにそのテストを判断することもまた難しいでしょう。
そして何かしら能力が備わっていない、著しく弱い人たちにどのように支援をしていけばいいのかと言う問題もあります。
今の学校教育では個別の支援は難しく、また金銭的に余裕のない人が軽度の障害に気づかれずに非行に走ってしまうという現状があります。
例え障害の有無を判別しても、その子にとって一番良い環境を提供できるとは限らないのです。ハトの群れの中にペンギンを見つけたとしても海に連れていくことが難しい状況です。
それでも私に、個人にできることはあるでしょうか。
私は人と接する仕事をしていますが、このような問題を扱う仕事をしていません。
そのような私にも何かできることはあるでしょうか。
そのようなことを考えさせられる一冊だったと思います。